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患者さんの「大丈夫です」、本当に大丈夫?~本音に寄り添うコミュニケーションのヒント~

Tags: 患者心理, コミュニケーション, 信頼関係, 看護ケア, 医療従事者

患者さんの言葉の裏に耳を澄ませる

医療現場では、患者さんとの対話の中で「大丈夫です」という言葉を耳にすることがよくあります。体調について尋ねると「大丈夫」、何か困っていることはないかと聞いても「大丈夫」、痛みの程度を尋ねても「大丈夫」…。この「大丈夫」という言葉は、本当にそのまま受け止めて良い場合もあれば、その裏に別の思いや不安が隠されている場合もあります。

限られた時間の中で、患者さんの言葉を一つ一つ深く掘り下げていくのは容易ではありません。しかし、この「大丈夫」の裏にあるかもしれない本音や、言葉にされないサインに気づくことが、患者さんとの相互理解を深め、より良いケアに繋がる重要な鍵となります。

本記事では、患者さんがなぜ「大丈夫」と言うのか、その背景にある心理を読み解き、本音に寄り添うためのコミュニケーションのヒントをご紹介します。

なぜ患者さんは「大丈夫」と言うのか?隠された心理を探る

患者さんが「大丈夫です」と答える背景には、様々な心理が考えられます。これらを理解することは、表面的な言葉だけでなく、患者さんの真意に気づく第一歩となります。

このように、「大丈夫です」という一言の裏には、患者さんの多様な感情や状況、医療者との関係性における様々な捉え方が含まれている可能性があるのです。

「大丈夫」以外のサインに気づく

患者さんの「大丈夫です」という言葉が、必ずしも本心ではないかもしれないと感じたら、言葉以外のサインにも注意を向けてみましょう。

これらのサインは、「大丈夫です」という言葉だけでは見えてこない患者さんの状態や気持ちを知るための重要な手がかりとなります。

本音に寄り添うためのコミュニケーションの工夫

患者さんの「大丈夫です」の裏にあるかもしれない本音に気づき、それを引き出すためには、どのようなコミュニケーションが有効でしょうか。

これらの工夫は、特別な技術を必要とするものではありません。日々の関わりの中で、患者さんの言葉だけでなく、その背景にある思いに想像力を働かせ、「本当に大丈夫かな?」と問いかけ、寄り添おうとする意識を持つことから始まります。

小さな気づきが信頼を育む

ある患者さんが、食欲不振で「大丈夫です」と答えていたものの、非言語的なサイン(顔色の悪さ、ため息)に気づき、食事の内容について詳しく尋ねたところ、実は口内炎ができていて食事が摂れなかった、ということが分かったとします。この場合、単に「食欲不振」として対応するのではなく、口内炎に対するケアを行うことで、患者さんの苦痛を和らげることができます。

また、別の患者さんが、転倒のリスクがあるにも関わらず「一人でできます」と譲らなかったのが、時間をかけて話を聞くうちに、「人に頼むのが申し訳ない」「以前介助されたときに嫌な思いをした」といった過去の経験や不安があったことが分かり、安全な介助方法について丁寧に説明し、同意を得られた、という事例もあるかもしれません。

このように、患者さんの「大丈夫です」の裏にある小さなサインや本音に気づき、それに対して真摯に向き合う姿勢を示すことは、患者さんにとって「自分のことをよく見てくれている」「自分の気持ちを分かろうとしてくれている」という安心感に繋がり、医療者への信頼感を深めることになります。

結びにかえて

患者さんの「大丈夫です」という言葉は、時に医療者への配慮や遠慮、あるいはSOSのサインかもしれません。表面的な言葉だけでなく、その背景にある患者さんの心理や、言葉以外のサインに気づこうと努めること。そして、少しの工夫を凝らしたコミュニケーションを実践することが、患者さんの本音に寄り添い、本当のニーズを把握するために不可欠です。

相互理解は、医療の質を高める上で最も大切な要素の一つです。日々の忙しさの中でも、患者さんの言葉に耳を澄ませ、その裏にある思いに寄り添おうとする姿勢は、必ずや患者さんとの温かい信頼関係へと繋がっていくことでしょう。本記事が、皆さまの日々のケアにおける患者さんとの関わり方のヒントとなれば幸いです。