リハビリ、栄養…視点を変えれば患者さんの理解が深まる〜他職種連携のヒント〜
日々、多くの患者さんと向き合う中で、限られた時間の中で患者さんの抱えるすべてを理解することの難しさを感じていらっしゃるかもしれません。病状だけでなく、その方の生活背景、価値観、退院後の目標など、人となりを深く知ることは、より質の高いケアを提供し、患者さんとの信頼関係を築く上で非常に重要です。
しかし、看護師一人の視点や関わりだけでは、患者さんの全体像を掴むには限界があるのも事実です。そこで鍵となるのが、チーム医療における他職種との連携です。医師、薬剤師、管理栄養士、リハビリスタッフ、医療ソーシャルワーカー(MSW)など、それぞれの専門職が患者さんと異なる側面で関わることで、看護師の視点だけでは見えなかった患者さんの「別の顔」を知るきっかけが生まれます。
この記事では、他職種との連携を通じて患者さんの理解を深め、日々のケアやコミュニケーションに役立てるための具体的なヒントをご紹介します。
他職種が捉える患者さんの「別の顔」
例えば、ベッドサイドや病棟を歩く姿しか見ていない患者さんが、リハビリ室では驚くほど積極的に取り組んでいる様子。あるいは、看護師には食欲がないと話していた患者さんが、管理栄養士には特定の食事に関する好みを詳しく話している、といった経験はありませんか?
それぞれの専門職は、その役割や関わる場面に応じて、患者さんの異なる側面を引き出しています。
- リハビリスタッフ: 患者さんの身体機能だけでなく、リハビリに取り組む意欲、目標達成への意識、ADL(日常生活動作)における実際の課題や工夫など、生活に直結する情報を多く持っています。
- 管理栄養士: 食事の嗜好、アレルギーだけでなく、食習慣、栄養状態に対する患者さんの意識、食事に関する悩みなど、栄養摂取を通じた心身の状態や生活背景を知る手がかりを持っています。
- 薬剤師: 服薬状況だけでなく、薬に対する不安や疑問、副作用に関する具体的な訴え、自宅での服薬管理能力など、薬剤の側面から患者さんの自己管理能力や疾患への向き合い方に関する情報を持っています。
- 医療ソーシャルワーカー(MSW): 患者さんの経済状況、家族構成、退院後の生活環境、利用可能な社会資源、抱えている心理社会的な問題など、退院後の生活や人生に関わる重要な情報を持っています。
これらの情報は、単に特定の専門分野の情報であるだけでなく、患者さんの性格、価値観、生活に対する姿勢などを理解するための貴重なピースとなります。
連携を深めるための具体的なコミュニケーション
他職種が持つ貴重な情報を得るためには、意識的なコミュニケーションが欠かせません。日々の業務の中で実践できる具体的なヒントをいくつかご紹介します。
- カンファレンスや多職種での情報共有の場を最大限に活用する: 申し送りやカンファレンスは、形式的な報告の場としてだけでなく、「この患者さんについて、私が知らない視点はありますか?」という意識で臨むことが重要です。他職種からの報告に対して、「それは具体的にどのような状況でしたか?」「患者さんはその時、どのような様子でしたか?」といった一歩踏み込んだ質問をしてみましょう。
- 「ちょっといいですか?」の声かけを恐れない: 廊下ですれ違った時や休憩時間など、カジュアルな場面での短い情報交換も有効です。「〇〇さんのリハビリの進捗はどうですか?病室では少し元気がないように見えたのですが」「△△さん、最近食事の量が減っているようで気になっています。栄養士さんから見ていかがですか?」など、率直に、しかし相手の忙しさに配慮しながら声をかけてみましょう。
- カルテ記載で他職種への情報発信を意識する: 看護記録に、単なる状態だけでなく、患者さんの言動や感情、それに対する自身の考察などを少し丁寧に記載することで、後から記録を見た他職種が患者さんの状況をより深く理解する手助けになります。また、他職種に知ってほしい情報や相談事項があれば、分かりやすく明記することも効果的です。
- 他職種からの情報提供に感謝を示す: 情報を提供してもらった際には、「教えてくださってありがとうございます。とても参考になりました。」など、感謝の気持ちを伝えることで、今後の情報交換がよりスムーズになります。
こうした日々の小さなコミュニケーションの積み重ねが、職種間の壁を低くし、情報交換を活性化させます。
患者さんの「人となり」を理解するために
他職種から得られた情報は、断片的な知識として終わらせるのではなく、患者さんの全体像を理解するための材料として活用することが重要です。
例えば、リハビリでの高い意欲を知ったなら、病室での声かけやケアの際に、その意欲を尊重し、小さな目標設定を促すような関わりができるかもしれません。管理栄養士からの食事に関する悩みの情報を得たなら、単に摂取量を増やす指導だけでなく、患者さんの嗜好や習慣に合わせた具体的な提案を、栄養士と連携しながら行うことができるでしょう。MSWからの家族構成や経済状況に関する情報は、退院後の生活を見据えた指導や相談の際に、より現実的で患者さんに寄り添ったアプローチを考える上で不可欠です。
このように、多職種からの情報を統合的に捉えることで、患者さんがどのような生活を送ってきたのか、今どのような状況にあり、何を考え、何を目指しているのか、といった「人となり」がより鮮明に見えてきます。そして、この深い理解こそが、患者さん一人ひとりに合わせた個別性の高いケアを提供し、患者さんからの信頼を得るための基盤となります。
まとめ
患者さんの理解を深めることは、一人の力だけで成し遂げられるものではありません。多職種それぞれの専門的な視点と情報が集まることで、患者さんの多面的な姿が明らかになり、より深く、より正確な理解へと繋がります。
日々の業務の中で、積極的に他職種とコミュニケーションを取り、情報交換を行うこと。それは、患者さんを「病気を抱えた人」としてだけでなく、「人生を生きる一人の人間」として全人的に理解するための大切な一歩です。
他職種との連携を深めることで、医療従事者側も患者さんへの理解が深まり、より自信を持ってケアにあたることができます。そして、患者さん自身も、チーム全体で自分を理解し支えてくれていると感じることで、医療への信頼感を一層深めてくれることでしょう。
今日から、隣の職種に「〇〇さんのことで、少し教えていただけますか?」と声をかけることから始めてみませんか。その一歩が、患者さんとのより良い関わり、そしてチーム医療全体の質の向上に繋がるはずです。